第1回 今のマンガを取り巻く状況


ずっとさぼっていたブログを1年近くぶりにリニューアルして再開しました。
「たまには真面目に考えてみよう」というタイトルで真面目に考えてみるのは、主にマンガのことです。マンガについてあーでもないこーでもないと考えるのは楽しい。それをまあここにアップして、奇特な方に読んでもらえたらと考えています。更新は大体週に1回か2回です。長文が多くなるでしょうがお付き合いください。


じゃあ、初回は何をということで、大上段に構えて「今のマンガを取り巻く状況――雑誌で読むか、単行本で読むか――」なんてものについて考えてみようと思います。まあ、結論は出ないことでもあります、事実出せていませんが(笑)。最初に言うと、単行本で読む流れは止まらないだろうと思います。


創出版から刊行されている「創」*1という雑誌は年に1回マンガ特集を組んでいます。最新号の特集タイトルはずばり「マンガはどこへ行く」です。荒川弘久米田康治の対談は非常に笑えるのでおすすめですが、ここでは「マンガはどこへ行く」という特集と同じタイトルの記事を参考にしながら話していこうと思います。


まず、出版物の市場規模自体、すでに右肩下がりです。マンガも同様で、全体の市場規模は縮小しています。ただ、2005年はエポックメイキングな年でした。ずっと単行本より雑誌が上回っていた推定販売金額*2が、2005年は単行本が上回ってしまいます。コミックスの推定販売金額は91年から見て過去最高にもかかわらずです。記事が指摘しているように、読者は雑誌を買わずに単行本を買っていることになります。登場する編集者(一編集者というよりは肩書きの立派な方々ばかりですが)はその状況に危機感を抱いています。


さて、以前とあるセミナーに参加し、大手出版社のお偉いさんの話を聞きました。彼は「自分のとこに入社する社員ですら、単行本は買っていても雑誌は買っていない」と嘆き、続けて「マンガ雑誌も文芸誌のように、雑誌は作家をつなぎとめる媒体となり、収益は単行本で上げるようになってしまった」という趣旨のことを話していました。この話を聞いたとき、単純に「やっぱり大手版元なんだな」と思ったわけです。他に金の使い道があるのに、読み飛ばす作品の含まれるマンガ雑誌を好き好んで買う若者がどれだけいると思っているのだろうと*3。そして、そういう状況に、決して少なくない数の大手未満の出版社が陥っているだろうと*4考えられます*5


マンガ雑誌には「読みたいマンガが3つあれば買う」という話があります。試しに「週刊少年ジャンプ」を1年間買う際のコストと、3ヶ月に1冊発売される単行本を年3タイトル買う際のコストを比較してみましょう。


240円×4週×12ヶ月=11520円
410円×3作品×年4回発売=4920円


つまり単純に好きな作品3作品だけを読むだけなら、単行本で買うコストは雑誌を講読するコストに比べ半額以下になるわけです。この数字はかなり重いです。ジャンプを年間購読する際のコストに釣り合いを取るためには、年4回発売される作品を7タイトル購入しなければなりません。今、一雑誌の単行本を7タイトル分購入している読者はどれだけいるでしょうか。自分自身のことを考えても、6タイトル購入している「アフタヌーン」が最多です。身も蓋もない言い方をすれば、目当ての作品だけを読むなら雑誌で買うより単行本で買う方が元が取れるわけです。


だけど、新連載や自分の知らなかったマンガに出会えるチャンスがあるじゃないか! というのも一理あります。でも、それは売り手、もしくはマンガ好きの理屈で、ちょっとマンガを読む読者にとっては、自分の読みたいもの興味があるものだけを買いたいわけです。だから、「NANA」の14巻が230万部売れているのに、掲載誌の「Cookie」は20.4万部なわけです。「Cookie」に興味はないけど「NANA」には興味がある、この状況が成り立つ雑誌は少なくないはずです。


その上、今はネットで「○○で始まった△△は面白いらしい」だけでなく「△△はこういうジャンルのマンガだ」ということまで簡単に知ることができます。情報を拾いやすくなった分、外れを引く可能性がある雑誌買いよりも、高い可能性で自分の好みに合う作品をチョイスできる単行本買いに移行していると言えます。そういう状況を後押しするのが、メディアミックスです。


今ドラマで放送している「クロサギ*6ですが、Amazonで調べてみると、一番売れているのが1巻で、次に売れているのが最新刊の9巻です(2巻、3巻、8巻と続いていきます)。これは明らかにドラマの影響です。内容的には女性受けしにくいものですが、主演が山下智久ということで、女性読者が増えていると言えるのもかもしれません。そして、ヤングサンデーが売れているという話も余り聞きません。


もうすでに、マンガ雑誌は文芸誌型の売り方に移行していると言えます。マンガと似たような状況にあるのがミステリーです。ミステリー雑誌は売れていません。その上、一部のベストセラー以外は初版1万部というのも珍しくなく、それを切る作品も多々あるでしょう。売れる作品はそれゆえマニア以外の読者にも読まれ、売れていない作品はマニアに支えられているといっても過言ではないでしょう。マンガもすでに状況的には似たようなものではないかと推測されます。ただ、マンガはミステリーよりも読者層が圧倒的に広いという違いはあるでしょうが。


そして、雑誌を売るか、単行本を売るかという観点で言えば、メディアミックスなどの効果から単行本の方が売りやすい。そのため、今後マンガ雑誌の版元はプロモーターとしての側面が重要視されることでしょう*7。ただ、なんでマンガがこれだけ海外にも輸出される(BLですら!)コンテンツになっているかといえば、それはマンガ市場のピラミッドが巨大な底辺を持っていることにより、多様性が生まれたためといえます。売れるものも欲しいけど、一般層には売れなくともマンガとして面白いものも欲しい。という市場の要求をどう処理していくか、そして、娯楽がこれだけ多様化した世の中で、マンガがどうやって現状を維持していくか。一読者として市場を眺めた場合、結構不安なわけです。


じゃあ、どうすりゃいいんだよ! という意見を持つ人も少なくないでしょう。結局のところ、面白い作品を作るしかないわけです。こちら側からすれば、面白い作品は買うわけですしね。マンガのライト層もつまらない作品を敢えて買うことはしないわけです。ただ、その面白い作品を作るだけでは立ち行かなくなっている現状もまた事実です。結局、打開策は出ないんですが、自分が子供の頃はマンガがこんな状況に陥るとは思っていなかっただけに、現状にはどこか寂しさがあります。そんな中で、自分が面白いと思ったマンガを取り上げることで、少しでも作品の読者が増えたらなと思ってここに書いていくつもりです。なんて、心にもない真面目なことを書いて終わりたいと思います。

*1:マンガ特集以外は、個人的に岡田×唐沢のコラム対談記事以外は特に読みたいもののない雑誌です

*2:出版科学研究所調べ

*3:それでも1号百万部以上売るマンガ雑誌が存在するのは凄いと思います

*4:コミックビームの売り上げは人づてに聞いた話だと数万部だそうです。個人的には「月の光」「銭」「機動旅団八福神」の単行本は買っていますが、雑誌は買っていません

*5:この辺りの状況に関しては、「銭」が詳しいです。

*6:ヤクザやアングラ関係のムックで見かけた夏原武氏が原作なのに、1巻を店頭で手に取ったとき少し驚きました

*7:この点は「創」三田紀房のインタビューやムック「KINO」の「Cookie」編集長のインタビューが詳しいです